放浪日記

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YouTuberジョーブログ出現に想う、平成のバックパッカー史(長文)

ジョーブログは、AbemaTV 「亀田興毅に買ったら1000万円」にも出演したことでも話題になった、登録者数が100万人を超える若者に人気のYouTuberだ。関西弁でしゃべりも達者な金髪のイケメン青年なのだが、彼のYouTubeでは、アメリカ、南米、アフリカなどを縦断するいわゆるバックパッカー旅を記録したものがあり、筆者も最初は全く興味がなかったが、見だしたらハマってしまい、何日間も夜な夜な視聴を続け、全動画を視聴してしまったほどだった。

ジョーブログ出現は平成の事件とも言えるのは、今までのバックパッカー(=個人でひとり旅するスタイル)のスタイルの変化が如実に表れていると思うからだ。

バックパッカーが世に広まったのは、平成を代表するリアリティテレビ番組、日本テレビ電波少年」でのコーナー、「ユーラシア大陸縦断ヒッチハイク」が代表的だった。(その前は深夜特急などがありがここでは省く)今やテレビ界の若頭的な位置にまで上り詰めた有吉弘行氏が出演して大ヒットした。その時は、無一文で苦労しながら旅をするという貧乏旅行スタイルが多くの視聴者の興味を惹きつけていた。

ジョーブログと猿岩石の旅で、何が大きく変わっているかというとネット環境が大きく変わった。これによって、旅のスタイルまでが全く違うと言ってもいいほど変容を遂げた。

猿岩石が旅をしていたのは、1996年(平成8年)。インターネットは黎明期で、家庭のデスクトップパソコンでネットを使う層が出始めた程度。旅をするにも、インターネットなどはない。ネットで情報を得るなんて邪道で、安宿にある「情報ノート」という書き置き式の共有本や、地元の人に聞き込みをして情報を得る、旅の仲間と情報交換するなど、旅人はあらゆる手を尽くして情報を引き出すのが、”格上”とされた。

ジョーブログがアメリカ大陸横断の旅企画を始めたのは2015年(平成27年)頃、この19年の間で、ネット環境は変わり果てていた。かつては「地球の歩き方」が情報の根幹だったものが、今では誰もがブログや掲示板に情報を書き込める時代。simフリースマホの登場で、現地で数百円で購入したsimカードがあれば、外国で日本と同じように、スマホを使える状況になった。
「【警察に賄賂⁉︎】マリファナ入りの麻薬ピザ屋に行ってみた結果…」の回では、「旅人の間では大麻入りのピザ、通称ハッピーピザが食べられる」ということで有名なラオスのバンビエンという街に直撃し、店でハッピーピザという大麻入りのピザが出てくるかを検証した(動画の中では法に触れる食事シーンはない)。こうした旅人の間でアナログな口コミで広がっていた噂は、ネット上に多少散らばってはいるが、かつては情報を他人に与えるのは「もったいない」意識が働いて、むやみに情報を与えたりしなかった。しかしながら、ネット上ではそれによって収入を得る手段もあるため、こうした情報を躊躇なく投稿し、それらが見られるようになっていった。

かつてもバックパッカーが出したエッセイなどには、カンボジアの売春村、インドの大麻パーティーなどアウトローな情報が多々出されていたが、あくまで有料で購入出来る書籍なので、誰でも閲覧可能なインターネットとは意味合いが違っていた。書籍は興味のある人間が基本的に情報を目にすることになるが、ネットでは全く興味のないその他大勢が、「揚げ足取り」や「小銭稼ぎ」のためだけにパトロールしているので、情報があふれ、検証のためだけに雪だるま式に人が訪れる。中には常識のない人間も混じっているので、ヘマをやらかして、結果的に現地に規制が引かれて、こうした世界にある秘境がなくなっていく。情報が拡散されている時代なのだ。

もう一つ変化として、旅人は小綺麗になった、というか汚い人が減った。ノートパソコンを持ち歩き、無料wifiのカフェでノマドワークをしながら、simフリースマホを使う。LCCが格段と安くなったのもあり、陸路で未舗装の道路を何時間もかけていくより、空路の数分で行けてしまうので、むしろそちらの方が安上がりになった。Twitterなどには「海外で旅しながらブログで収入を得ています」という人が溢れかえっている。こうした人に憧れる人たちは、「海外で優雅に暮らせていいな」という意識高い系、ビジネス的な目的の人たちだ。純粋に旅したいというのとは違う発想の人たちが占める。

ジョーブログなどのYouTuberやブロガーが、情報を上げてくれることで、これから海外初旅行する大学生など、昔より格段に旅をしやすくなったのは間違いない。世界1周しながらブログのアフィリエイト収入で旅をしている人も2000年代初頭にはもう現れていたが、またまだ少数だった。その頃には、高橋歩が「世界一周しちゃえば?」という本も出版され、旅は楽しんでかっこよくというのが主流になり始めていた。

2018年末にNHKEテレで「平成ネット史」が放送されて話題を呼んだが、旅人もネットの進化に応じて、変化していったのは間違いない。平成11年に2ちゃんねる開設、平成15年にブログブーム、平成16年にmixi開設。この頃は、世界の安宿街などにネットカフェができていた。1時間数百円などで閲覧できるもので、外国人が押し寄せて、自国語の情報を2chやブログなどを読み漁っていた頃だ。この頃にmixiなるものができ、日本にいる友人とやり取りもできた。平成20年にTwitterができた。かつては日本人宿にとりあえず行き、仲間を見つけて旅をスタートするというのが通例だったが、今やTwitterで事前に仲間を募って、旅をするということも珍しくなくなった。

かつては、タイバンコクのカオサンロードがアナログバックパッカーの象徴的なものだった。しかし今は、航空券はスカイスキャナー、宿はブッキングドットコムによって、価格が見える化したことによって、「とりあえずカオサンロードに行って情報を得る」などということはかなりナンセンスなことになった。ネットでピンポイントのコスパの良い宿に泊まる。ネットで仲間を見つけて、航空券を手配する。ネットの進化と比例して、旅人も進化していった。今後もネットの進化によって、ジョーブログよりも進んだ令和時代の旅人が生まれていくのだろう。